written by あゆかさま










第50回 SWEET BRIERバレエ団 記念公演 配役決定

種目・・・・・・白鳥の湖
演出&振付け・・ハイネ・ベジャール先生

オデット・・・・フランソワーズ・アルヌール
オディール・・・杉原 純花


公演最終日

オデット・・・・杉原 純花
オディール・・・フランソワーズ・アルヌール




その張り出された配役に眼を見開き・・息を飲むフランソワーズと純花の姿があった。
「最終日の配役、間違いじゃないの?」
「でも、見てみたいけど・・」と周りのざわめく声が耳に入ってくる。

フランソワーズはこれまでに何度も白鳥は経験があるが、
どれも、オデット役ばかり。
どちらかと言うと、ジゼルやレ・シルフィードなど幻想的な役を得意とするフランソワーズに対して
フランソワーズと同じクラスで良き友人・良きライバルでもある純花は
フランソワーズがオデットなら純花は黒鳥・・オディール役
彼女はドン・キホーテや火の鳥といったどちらかと言うと、激しく情熱的な役が得意だった。

呆然とその掲示板を眺めていた純花がカクカクと首を廻し
「フラン・・・これって・・いじめ?」とまじまじと聞いてくる
フランソワーズも同じ事を考えていたのか、引き攣りながら笑い返した

だが、二人は覚悟を決めなければならない
今回は50回目と言う記念公演でもあり・・何と言っても演出と振付け師は二人が憧れていた
振付け師なのだから・・
しかも生徒達から鬼先生とあだ名が付き、厳しさは評判があがる程の人物

「純花・・二人でがんばりましょう!黒鳥指導してね」
「こちらこそ、お願い!白鳥なんて・・どうしよう〜〜」


いつまでも、配役に驚いている暇はなくその日からレッスンが始まった。


教室にハイネ先生の叫び声が終わる事なく響いていた。
周りでレッスンに励む生徒達も息を飲むほどの厳しさだ

オデット役を踊る純花に
「何だ?お前・・悪魔の白鳥に見えるぞ!やり直し!」
一方オディール役を踊るフランソワーズには
「お前も何だ?そんな弱々しい黒鳥、見た事ないぞ!」と散々な言い方だ


レッスン終了のチャイムが鳴り響くとハイネ先生は
「一週間以内に杉原は白鳥を!アルヌールは黒鳥をマスターしろ!マスターしてから振付けを再開する」
と言葉を言い残し教室を立ち去っていった


”一週間・・・・”

「やるしかないわね。純花・・・私に黒鳥を見せてくれない?」
「ええ・・OKよ・・じゃ、フランは白鳥を踊って」

フランソワーズは白鳥を純花は黒鳥を互いに踊り見せあった
やはり、得意とする踊りを踊るのは気持ちがよく先程までガチガチだった手や足や表情までもが
違ってくる。

お互いがお互いの踊りを食い入るように見つめ、そして踊りの一つ一つをチェックし頭に叩き込む

黒鳥か・・・王子をオデットと思わせながらも誘惑していく・・そう謎めいた微笑を絶えず
例えるなら追いかける女性、そして王子が振り向くと突き放す冷たさを備えた女性
私なら追いかけるとしたら、誘惑するとしたら
どんな方法を使うだろう?
純花の踊りは流れるのではなく、ポーズ一つ一つが正確にキチッと数秒止まっている。
手の動きが大胆に見えるが雑には見えない・・どうしたら・・・

私の黒鳥・・・・そうだわ!
オディールは王子を威圧し魅了していく、そして自分の魅力に落ちていく王子を嘲笑っていく・・
愛してしまった男(ひと)を奪略するように・・・

問題は32回転・・王子に自分がロットバルトの娘である事をわからせる為の大事な場面
妖艶な踊りかつ・・悪魔的な踊り・・を見せるのは?


純花が黒鳥の踊りのメインである32回転(グラン・フェッテ・アン・トゥールナン)が始まった
やはり情熱的な踊りが得意とあって、ドゥーブル(2回転)を取り入れている

それに釣られるかのように、フランソワーズも32回転を踊り始めた
が、しかし回転のスピードは純花には敵わなかった。


私の黒鳥は、大胆に王子を魅了し嘲笑い・・そして、32回転は・・スピードとそして、ドゥーブル!
「純花!有難う。自分への課題ができたわ」
「よかった!じゃ・・次は白鳥をたっぷり見せて貰うわね!」







「あ・・はい・・はい・・そうですか、わかりました。いえすみません、有難うございました」
受話器を置いたジョーが深い溜息と共に、心配そうな顔をして彼の言葉を待つギルモア博士の顔を
振り向き、
「やはり、いました。今から迎えに行って来ます」と玄関に向った

ジョーの言葉に胸を撫で下ろすと、
「あの子は夢中になると時間を忘れるからのう・・ジョー頼んだぞ」

時計の針はもうすぐ、午後11時を過ぎようとしていた。
夕飯の時間を過ぎても戻らないフランソワーズを心配しながら待っていた博士はその後、仕事から戻って来た
ジョーにフランソワーズが帰って来ない事を告げた。

ジョーはすぐにフランソワーズの携帯に電話をいれたが、留守録メッセージのガイドが流れるだけで
連絡が付かない。もしやと思いバレエ団に電話してみれば

見事、ジョーの予想が当たり、電話口にでた警備員がまだ練習をされているようですよと教えてくれたのだ


車のライトが暗い夜道を照らしていく
”ったく、フランのやつ・・一体何時だと思っているんだ?”
練習で時々残り、遅くなる事は今まで度々あったが、此処まで遅くなるのは始めての事だった。
大概、遅くなる日は電話があり、心配する事はなかったのだが、今日に限って電話もなく
家に着くなり、玄関口で心配そうな顔をしてオロオロする博士を見た時は何事かと一瞬構えてしまった
好きな事に夢中になり時間を忘れる・・フランはもっと自覚しないと、と何回、フランに言った事か・・
今回はもう少し厳しく説教をしなければと決心したジョーはアクセルを踏み込みスピードを上げていく







「きゃぁ〜〜」ズテン!!
「純花!大丈夫?」その大きな音に慌てて振り向くと純花がこけて床に尻モチをついている

痛たたたた〜〜とお尻を撫でながらゆっくりと立ち上がる純花の眼が点になると
「きゃぁ〜〜こんな時間〜〜〜どうしよう!!お父さんに怒られる〜」と叫びだす
時間?とフランソワーズがレッスン室に掲げられている時計を何気なく見ると、絶句した。
「私も説教されるわ・・・・」

二人は一目散にトウ・シューズを脱ぎ始め、無造作に袋に詰めて、更衣室へダッシュした。
廊下を走りながら、シャワーはどうする?そんな時間はないわ〜終電バスでちゃう〜〜と焦り声が廊下に響く、

乱暴に更衣室のドアを開け、着替え始めた
「お父さん厳しくてね〜〜ああ、、電話もしてない。夕飯は抜きだわ・・・」鞄にレオタードとタイツ・タオルを
詰め込みながら・・愚痴る純花
それに対して、フランソワーズも顔を引き攣らせながら・・
「私にも厳しい人が一人いるわ、私も夕飯、食べれないかも・・」とゴツンと閉めたロッカーに頭を打つけるのだった

明日からは遅くなる事を家族に言う事、それに残るのは午後10時までにしようと
走りながら話し出口に向かうと、そこには明らかに、機嫌の悪いジョーが腕を組み立っていた。


フランソワーズの顔が強張り、恐る恐るジョーに近づいて行くと
「お疲れ様、フラン。あんまり遅いから迎えに来たよ」と声は優しいが顔は眼は確実に怒っている。

「あ!・・あの・・ごめんなさい・・あの・・あのね・・・」
言い訳しようと、遅くなった理由を言おうとしたが、その言葉はジョーの
「友達も送っていくから、早く車に乗って」と言うセリフに遮られてしまった。

まるで親に怒られた子供のように大人しく車に乗り込むフランソワーズ
後部座席に乗る純花もこの状況が理解できたようで・・
言葉少なく、自宅への道をジョーに説明しただけで無言だった

ジョーがアクセルを踏み込み、緩やかに車が発進し、加速はじめる
心地いい揺れに、睡魔が襲ってくるのを必死に耐えながら
チラチラッとジョの顔を覗き見るが、ジョーは無言のまま、前を見て運転に集中していて、
しかし、横顔からも解る。確実に怒っていると・・
フランソワーズは心の中で何度も何度も謝っては溜息を漏らしていた。



車がカーブを曲がると「ここら辺でいいです」と純花が指示し、静かに車が停車した。
純花は後部座席のドアを開け、
「有難うございました。・・・あの・・・喧嘩しないで下さいね。おやすみなさい」
と一言残し、自宅へ戻っていった

”純花に気を使わせたわ、明日、謝らないと”車窓から手を振りながら思い窓に向けていた上半身を前に戻した


車内に重たい空気が流れ始め、
「フラン!」ジョーの自分を呼ぶ声が更に空気を張り詰めていく。
”来た・・・”ジョーの説教の始まりの合図だわ。とシートに預けていた身体を少し前にずらし姿勢を正した
しかし睡魔は激しく襲ってきて、最悪のコンデションだ。


「フラン、君がバレエの練習に夢中になるのはいい事だし、僕もそんなフランを応援したいと思っているよ
でもね、いつも言っているだろう?練習などで遅くなる日は、必ず電話するようにって!
必ず、僕が迎えに行くって、約束したよね!今日、どれ程、博士や僕が心配したか解っている?
それに夕食も食べずに練習を続けるなんて、身体に悪いだろう?倒れたら練習どころじゃないんだよ
フラン?聞いているの?・・・フラン?」フランソワーズのか細い声の「ハイ」が聞こえない事に
疑問を感じたジョーは、助手席の方へ振り向くと、眠り姫がいた。
すでに深い眠りになっているようで、揺すっても起きそうにない、その寝顔に溜息を吐き眼を細め見つめ微笑むと

お説教は明日に延期だな、とジョーは再び前に顔を向け車はギルモア邸を目指した


駐車場に車を止め、助手席のドアを開けたジョーは、一瞬笑みを浮かべフランソワーズの
脇下と膝下に手を添えそっと、起こさないように抱き上げる


フランソワーズを彼女のベットに寝かせ掛け布団を掛けと、その場にしゃがみ込み
眼を細めながら、彼女の顔に掛かっている髪を掛け上げ、
そして、”がんばれよ”と小さな声で呟くと、頬に唇を落し部屋を後にした。







「フラン!」更衣室で純花が、フランソワーズの傍に手を振りながら歩み寄って来る
「純花、お早う。昨日はごめんね。変に気を使わせたみたいで・・」
手を合わせごめんのポーズをしながら謝るフランソワーズに、純花は両手を前に広げ振りながら
いいのよ!いいのよ!こちらこそ有難うと微笑んだ。

「で、結局ね、お父さんが毎日迎えに来るって〜〜ああ〜〜今日の私、お母様特性弁当持ちよ!」
「純花も?」フランソワーズは朝食の時にジョーから言われた言葉を思い出した

毎日、僕が10時に迎えに行くから、それまでに練習を切り上げる事
それから、夕食は張々湖がお弁当を作ってくれるから、ハイこれね!と渡されたお弁当箱と水筒
キチンと食べないとダメだよ!それから・・・・

まだ冴えていない頭にガミガミと聞こえてくるジョーの説教、殆ど憶えていなかった。
唯一、10時に迎えに来る事とお弁当を渡された記憶だけがある。

それからのフランソワーズは純花と残って練習に励み、張々湖お手製の弁当を食べ、
10時に間に合うようにシャワーを浴び、出口まで駆け足で走り
迎えに来たジョーの車に乗り込む生活が続いた。

帰りの車の中では、眠り姫になり、気が付くと自分のベットに寝かされている事もしばしばあった


そして、約束の日ハイネ先生にそれぞれの白鳥・黒鳥を披露した二人はハイネ先生からの審判を
真剣な表情で待っていた。


「二人とも合格だ!明日から王子役の熊川とペアの練習に入る」
厳しい口調ながらも、ハイネ先生は眉尻を下げて笑っているかのように、二人には見えた。
続けて先生は何故、最終日に不得意な役を二人に与えたのかを話してくれた
それは、バレリーナとして踊り続けるには、不得意な役から逃げてはダメだという事
そして、それを克服した時、新たな自分の踊りが発見でき自信に繋がる事を知って貰いたかったと


フランソワーズと純花は改めて、ハイネ先生に指導して貰らえた事を誇りに思い、深々と頭を下げた
先生有難う!二人は心の中で、感謝の気持ちでいっぱいだった。


先生が教室を出た途端に、互いに抱き締め合い床をピョンピョン跳ねて喜びあう
不得意な役の踊りを、認めて貰えた。
この1週間で、ダメにしたトウ・シューズ2足。パンパンに貼る脹脛を引き釣りながら出口へ走った日々、
眠い毎日、家族や恋人からの心配の声・・・すべてが報われた。







そして、公演最終日がやってきた。

幕は第2幕を終え・・次の幕でフランソワーズの登場となる。
彼女の友人である純花の白鳥もフランソワーズとは、また違う白鳥で新鮮だった。
フランソワーズの白鳥はどこかはかなく妖精の様に見えるのに対して、純花の白鳥は人間味が感じられた


第3幕が上がり、舞台は舞踏会のシーンとなり。
そして、ロットバルトに手を引かれながらオディール(フランソワーズ)が舞台へ登場となった。

その姿を見た、ジョーは眼を見開いた
昨日まで白鳥を踊っていたフランソワーズなのか!と思える程の存在感、威圧感
そして、表情や目つきまでもが、まったく別人だった。
ジョーもフランソワーズの黒鳥を見るのは初めてだったが、ここまで変われるとは想像を遥かに超えていた

ストーリは進み、王子が王妃にオディールとの永遠の愛を誓う場面、
黒鳥と王子の”パ・ド・ドゥ”の始まりだ。
ジョーは上半身を前に屈めて、食い入るように舞台を見つめた


フランソワーズの表情が手が踊りがすべてが妖しく舞い魅了する


<さぁ〜王子、私に溺れなさい。魂の赴くまま貴方の本能のままに・・・。
 ほら、貴方の瞳には私しか映らない、でも私はそう簡単に貴方の女にはならないわよ、さぁ、どうするの王子?>


まるで、そうセリフを言っているようなフランソワーズの踊りに吸い込まれるようだ
一瞬背筋がゾクッとし、手を口元に充てシートに思わず凭れかかってしまう。
”本当に・・フランなのか・・・”


舞台では、王子がオディールとの永遠の愛を誓う


すると、そんな王子を嘲笑うかのように、自分の正体をさらけ出し始める
32回転(グラン・フェッテ・アン・トゥールナン)が始まった


ジョーはゴクッと唾を飲み込み、回転数を数え始めると同時にある事を思い出した

それは、助手席の眠り姫を抱き上げ、何時もの様に彼女の部屋のベットに寝かし靴を脱がした時
彼女の爪先が血まみれとなっているのが視線に入り
慌てながら研究室にいた博士を呼び、手当てをして貰った事を・・

どれ程、フランソワーズが血の滲む思いをして練習に励み、この舞台のスポットライトを浴びたか
そんな事を微塵にも出さず、フランソワーズの32回転は続いている


ドゥーブル(2回転)取り入れながら眼も止まらぬ速さで回転していくグラン・フェッテ・アン・トゥールナンは
残り3回転となった。

30・・31・・32!・・・・・・。

最後の回転が終わり、ポーズを決めるフランソワーズに観客は総立ちとなり盛大な拍手と喝采を与えた







「ジョー!お待たせ・・・」と出口で待っていたジョーを見つけたフランソワーズが両手にいっぱい
花束を抱えパタパタと走って来た。その表情はとても自信に溢れた笑顔になり眩しくて・・・。

「フラン、お疲れ様、今日は新たなフランを発見できたよ」と花束をフランソワーズから受取り
車の助手席を開け彼女が乗り込むのを確認すると、運転席に乗り込みキーを廻す

興奮が冷めぬフランソワーズは舞台での最後の挨拶が終わった後、純花と泣いた事、ハイネ先生が駆け寄って来て
二人の踊りを褒めてくれた事を眼を輝かせながら話している。

話しが一区切りつくとフランソワーズは運転するジョー顔をじ〜と見つめると、何を思ったのか
「ねぇ?ジョー私の白鳥と黒鳥をどちらとも見た訳だけど、どっちがよかった?」と聞いてきた

えっ?どうしたの突然、どっちもよかったし、どっちもフランに変わりはないだろう?と
そう答える、ジョーにフランソワーズはやや不服そうな顔をし質問を変えると

「じゃ、白鳥のようなか弱い淑女のような私と黒鳥のような情熱的で激しい私どっちが好み?」

その大胆な質問にジョーは一瞬耳を疑い、思わずブレーキを踏みかける程うろたえた
しばらく考えたジョーはどっちのフランも好きだよと言い。ふっと笑い再び運転に集中し始めていく

だが、”どっちのフランも好きだよ”と答えたものの、心の中では別の答えがあった
<昼間は白鳥のような淑女のフランで、夜は黒鳥のような情熱的なフランがいいかな?>
そんな男の欲望丸出しの自分の答えに、ふと、口元を緩めると、いきなり、左頬を抓られた。

「わ!、、ひたいよ!フハン。ふんてんちゅうだろう?」と自分の頬を抓る、
フランソワーズの右手を思わず掴むと

「ジョー!今、ヤラシイ事考えてたでしょう?」と冷めた眼でジョーを睨むフランソワーズの顔

一瞬、ギクッとするが、「そんな事ないよ」と答え、平静な振りを装うのだった。

「今、ギクッとしたわね!!ふ〜〜〜〜ん」と拗ねた声を出し、ジョーの頬を抓ねた右手を引込めると、
腕を組み、足までも組み変え、口を尖らせているフランソワーズの態度がとても可愛くて堪らなかった

<君が、拗ねても、怒っても、どんな態度になっても、僕は君に夢中だよ。どうしたら機嫌直してくれる?>

「フラン・・機嫌直してよ!ケーキ買ってあげるから!」

そのジョーの言葉に、彼女の眉尻がピクッと反応し、口元が緩むと、笑みが零れてきた。
”お!!機嫌直ったな、やっぱりフランのご機嫌取りはケーキが一番だな”
フランソワーズが拗ねた時にケーキを買ってあげると、途端に上機嫌になる事は
今までの経験から、得た操作方法。
フランソワーズのお気に入りのケーキ屋は来た道を戻らなくてはならなかったが、そんな事で
彼女の機嫌が直るならお安い御用だ。ジョーはUターンできそうな瞬間をサイドミラーと
バックミラーで確認をしはじめていく

その時、「物で釣るの?」と明らかに怒っていますとわかる声色とオーラを助手席から感じ聞こえてきた

「えっ?」ご機嫌が直ったフランソワーズを、ケーキ屋に連れて行くつもりだったジョーが苦笑と共に
「ケーキいらないのか?」と尋ねると、「いらないわ」と即答が返って来た
ジョーは、「”REZA堂”のケーキだよ!本当にいらないの?新作、好きなだけ買っていいんだよ」と
フランソワーズの大のお気に入りのケーキ屋の名前を出せば、動揺するだろうと思ったジョーの考えが甘かった
何故なら、彼女の返事は・・・・
「いらないわ!だって王子役の熊川君からの差し入れで、その”REZA堂”の春の新作ケーキ頂いたから」

そう言い切った、フランソワーズは窓の外へと視線を向ける
車の中に沈黙と言う、重たい空気が流れ始める。



ジョーが突然、ハンドルを左へ切り、人通りの少ない脇道に車を進めて行く。
暫く、ゆっくりと車を走らせると車が駐車出来そうな空き場所を見つけブレーキをかけ車を停車させた。

何?急に・・もしかして私が拗ねた事、怒ったの?でもジョーが悪いのよ。変な事考えるんだもん
ジョーの突然の行動に動揺するも、”自分は悪くない・・悪くない・・”と心で念じている


「フラン・・・」ジョーが、低くて甘い声でフランソワーズを呼んだ

本当は許してあげない、でも意地を張っている自分が情けなくなったフランソワーズが
ジョーの方へ振り向いた瞬間、行き成り抱き締められて、、、、
「僕が君に買ってあげるケーキより、その王子様からのケーキの方がいいんだね・・」
そのジョーの言葉に、フランソワーズは顔を引き攣らせ”しまったぁ!!”と後悔したが、もう後の祭り・・・

何時の間にか、権勢が逆転し今度は嫉妬心からジョーが拗ねている

あの・・・あのね・・やっぱり買いに行きましょう?貰ったケーキはほら、博士達にあげるわ
あんまり気に入ったケーキじゃなかったし・・・視線を彷徨わせフランソワーズの苦しい言い訳が始まった

「さっき、新作のケーキだって言ってなかった?」ジョーの言葉が更にフランソワーズを苦しめる

うっ・・・確かに貰ったケーキは”REZA堂”の春の新作ケーキ、どれも美味しそうで自分の好みで
ず〜〜と公演が終わるまではと我慢し続けたケーキ
”口は災いの元”と言うことわざが脳裏を霞めていく、
「いいの!新作よりもいつものケーキの方が私食べたいなぁ〜〜」更に苦しい苦しい言い訳をしながら
横目でチラチラッとジョーの顔色を伺う。

「・・・そう・・わかった。でもフランその前に・・・」と言葉が途切れ、ジョーの顔が近づいてくると、
「これは、白鳥のキス」とセリフを吐きながら軽く唇を塞がれ、そして離れていく
再び唇が近づき「これは、黒鳥のキス」と先程とは比べ物にならない程、啄むように、何度も何度も唇を重ねられ
さらに唇の中へと進入してきて、熱を持ったその舌は、止まる事なくすべてを撫で廻していく
「・・・んっ・・・」
熱い口付けは、甘くて溶けそうで身体の熱が一気に上昇し始めていく

満足したのかやっと唇が解放され、抱き締められたままジョーの胸に顔を埋めていると
「これで、あいこだよ!」頭上から、クスッと笑う声と共に聞こえてきた


はっ?・・・・・もしかして・・・・・?


自分のペースだったはずが何時の間にかジョーのペースに巻き込まれていて、しかもジョーの作戦勝ち・・


ちょっぴり悔しいけど、だけど愛してる。


でも、今日は新作のケーキを買ってねと、心の中でお願いをするフランソワーズだった







<Fin>








・・・・・・・・・







Timさんを壊してしまったお詫びと愛情を込めて
バレエSSをPresentさせて頂きました。
いつか、絶対に一緒にバレエを堪能しに行きましょうね☆

From あゆか















あゆかさんが書かれるバレエを踊るフランソワーズが、私は大好きです。
某所さまにアップされたバレエSSを、イイナー、素敵ダナー、チクショー、と指をくわえて見ていたら、
私の恨めしげな視線を感じ取ったのか、身の危険を感じたのか(?)、心優しきあゆかさんはナント
バレエSSを書いてプレゼントしてくださったのでしたv

しかも、ネタが、ネタが!!(>▽<)ウヒョー

あゆかさんとの熊川版「白鳥の湖」デートは実現しなかったけれど、でもでも
それを補って余りある素敵なネタを持ってきていただいて、しかも最後は我侭きいてちょっぴり黒ジョーにしていただいて(エヘ)、
倒れそうなくらい嬉しかったのです。
あゆかさーん、今度はぜひバレエをご一緒いたしましょうね。
しかし、私はケーキに材料を入れ忘れるような人ですよ・・・???笑


あゆかさんの素敵サイト「Sweet Brier Drop」さま
・・・は終了いたしました><



>> プレゼント箱へモドル
>> menuへモドル





素材:Salon de Ruby さま